予防と健康管理レポート

                   

 

1はじめに

予防と健康管理の授業の一貫として見たビデオの内容を踏まえて、レポートを作成する。また、作成するレポートは、与えられたキーワードの中から2つ選択し、キーワードと関連した科学論文から興味のあるものを2つ選び、レポートを作成する。

今現在世の中で起こっている問題や現状を知り、十分理解するに至った。選んだ論文の内容とビデオの内容から医師を目指す者として考察を試みる。

 

2選んだキーワード

「ストレス」 「労働」

 

3選んだ論文の内容の概略

 

企業におけるメンタルヘルス ー産業医の立場からー

                    廣 尚典

最近三年間で約六割の企業において、心の病が増加しており、67%の企業で一ヶ月以上の休業者が出ている。年齢層は特に30代から40代に多い。

組織のスリム化、フラット化あるいは流動化により、質、量の両面にわたる業務負荷の増大、労働者の役割の不安定化が生じている。こうした事態では、管理される側の労働者のみならず、管理者の立場でも、職場管理、就業面の配慮が困難になり、過大なストレス要因となってしまう。従来、職場のメンタルヘルスには、管理監督者が部下の管理、指導等を適切に行うことが重要であるとされてきたが、それが困難な状況になっているといえる。また、人事制度が間直されて短期業績が重視されるようになったり、休業補償に関する制度が改定されているところもみられる。短期業績の重視は、労働者に対して日々の業務を余裕の無い物にする方向に働き、抑うつや苛立ちを惹起しがちである。休業が認められる期間の短縮等は、一部の事例については治療的な効果をもつ面があるものの、休業に至った多くの労働者の焦燥感を高め、さらに当該事業場の労働者全般に対しても好ましからざる影響を与える恐れがある。労働者のストレスに対する弱さも見落とせない。30代に問題が多発している現状は、職場環境に関する事柄だけではおそらく説明がつかず、人格形成期における社会的環境など、その世代に固有の問題があると推測せざるを得ない。

こうした状況下で従来以上にメンタルヘルス対策に取り組む動きが中〜大規模企業にみられている。

一般に疾病予防が、1次〜3次予防に分けて考えられるように、職場におけるメンタルヘルス対策も事例の予防として3つの側面を有しているとみなすことができる。すなわち、精神面の健康の保持増進活動(1次予防)、精神面での健康問題の早期発見・対処に関する活動(2次予防)、および精神疾患等による休業者の復職支援活動(3次予防)である。精神疾患による休業者が増加している現状では、これらのうち3次予防が多くの事業場にとって当面の差し迫った問題として生じているが、人員の削減等より労働力に余裕がない実情から、2次予防および1次予防の重要性も認識されてきている。

社会精神医学の領域では、いわゆる「疾病性(illness)」のみならず、「事例性(caseness)」の視点が重要である。産業領域においても、「事例性」の視点は欠くことができない。「事例性」とは、一般的には、疾病が存在する、しないという評価だけにとらわれるのではなく、「その本人の通常の言動からの偏倚」と「所属集団の平均的な有様からの偏倚」に注目し、そこから生じる諸問題に目を向けていくという考え方を背景とするものである。しかし、それは主として個人を支援していく立場からのものであったかと思われる。産業保健においては、「事例性」という表現で、別の意味も強調されるべきであろう、すなわち、当該労働者本人に対してだけでなく、本人を取り巻く上司、同僚あるいは人事労務担当者等に対しても、その心理的負荷を慮って、適切な助言を与えるなどの配慮を十分に行う。さらに、本人の言動によって職場で生じている問題の大きさや本質を評価し、組織形態や制度に関する問題にも注目して必要に応じてその変革を働きかける。こうした個人のみならず、職場に対しても働きかけを行う視点を重視するのは、産業保健にとってよりよいことである。

労働者の健康問題に対して、産業保健は以下のようなアプローチを有している。例として化学物質による健康障害に対する対応をあげる。

まずなるべく人体に影響の少ない物質を使用したり、換気などをして、気中の化学物質濃度を低くするといった、影響を軽減させる取り組みを実施する。これを「作業環境管理」という。次に、作業環境管理ではどうしてもある程度の曝露が避けられない場合があるため、防毒マスクなどの着用、ローテーションによる作業時間の短縮化などによって、労働者を保護する。これを「作業管理」という。しかし、作業環境管理と作業管理を行っても、予想外のトラブルで一部の労働者が曝露するかもしれず、また化学物質過敏症の労働者は、その他の労働者には影響のない曝露量でも重篤な症状が発現する恐れもある。したがって、労働者の健康状況を個別に評価し(健康診断)、その結果をもとに必要な対策を講じること、すなわち健康管理が必要になる。作業環境管理、作業管理、健康管理を労働衛生(産業保健)の3管理という。そのためには、労働者や管理監督者の教育が重要であり、またこれらのシステムとして機能させていく総括管理も必要である。こうした産業保健のアプローチはメンタルヘルス対策においても導入できる。またこの手続きを確実に実践することが、事業者責任を果たすことにつながるはずだ。

以上は主に1次予防に該当するが、個人のみならず集団、組織、あるいは組織形態や制度に関して改善、変革を求める取り組みは2次予防、3次予防にも効果が期待できる。

 

 

労働者のメンタルヘルスに関してー精神科医療機関からの支援―

                    渡辺 洋一郎

全体の就業者のうち、精神障害がある人が増加している。自殺者も年間およそ8000〜9000人におよび、過労自殺、労災としての精神障害や自殺が問題となっている。さらに、休業を余儀なくされる精神障害者に対する復職支援、精神障害者の雇用率算入にともなう精神障害者の就労支援、労働安全衛生法改正に伴う長時間労働者に対する医師の面接義務など、多岐な免から職場において精神医療へのニーズが増大している。

精神科医療機関の、労働者へのメンタルヘルスとしてのかかわりは、自主的に企業にsecretで受診する労働者の治療的対応が主体であり、このようにして加療するも休職、就労制限を必要とする場合に、必要に応じて企業関係者に助言する、あるいは、休職者の復職などに際し、主治医としての意見を企業関係者に伝えるということが一般的であった。しかし、ここにきて精神科医療への新たなニーズが生じてきた。労働安全衛生法が改正され、長時間労働者への医師の面接義務が生じたこと、障害者雇用促進法の改正にて、精神障害者の雇用率参入が認められ、精神障害者の就労支援の必要性が増大したことなどから、企業からの依頼による労働者への診療が増加すると考えられることである。しかし、企業側から精神科医療への新たなるニーズは、精神科医療機関として新たなる可能性と同時に新たなる問題点を提起するのではないかと考える。

まず、契約関係の特殊性に基づく疑問として、@医師との契約相手は労働者か企業か、A労働者の受診目的と企業の依頼目的は同じか、B守秘義務は解除されるのか、C誤診、治療の失敗で医療機関は責任を問われないのか、というさまざまな疑問が生じる。

また、その一方で、精神科医療機関に対しては、企業の期待に応える助言が可能かという課題がある。すなわち、@精神科医療機関は産業精神保健の見識が十分あるか、A現在の精神科医療環境でどこまで評価が可能か、B経済的担保はあるのか、などといった疑問や課題である。精神科医療機関が職場と有効な関係を築いていくためにはこれらの疑問や課題について見当していく必要がある。

職場と精神科医療機関との連携における課題を整理すると大きくは以下の二つが考えられる。

1)            企業の安全配慮義務と主治医の守秘義務に関して

産業医を選任するのは企業であり、産業医は企業に属し企業から収入を得ている。また安全配慮義務の主体は企業である。このようなことを考えると、産業医の中立性には限界があるのではないか、最終的には企業側利益を優先せざるを得ないのではないかと考えられる。一方、精神科主治医は、患者の治療が目的であり、患者の意思を尊重する。また、患者から収入を得ており、あくまで患者の立場である。すなわち、患者と企業の中立的立場ではない。また、守秘が前提であるから、患者の不利益になる可能性のあることはしない。

精神科主治医としての危惧をまとめると以下のようになる。

@                    企業において患者の個人情報は保護されるか

A                    患者の不利益につながらないか

情報提供が患者の切捨てにつながらないか。例えば病名の情報提供が疾患差別につながらないか。産業医も真に中立的存在になりがたく、労働者保護のための防波堤になり得ないのではないか。主治医からの情報提供が結果として患者に不利益をもたらした場合、主治医が患者から訴えられることもありえるのではないか。

 

2)            精神科医療の現在の医療環境に規定される事項

まず、現在の保健診療下において、一度の診療にかけられる診察時間には相当な限界がある。このような状況下において、本人の診察以外に、企業が主治医との面会、診療情報提供など連携を望めば相応の費用負担が必要であろう。

また、印象としてであるが多くの精神科医療機関に認識がまだ乏しいと思われる。そのため、産業精神保健の知識、関係法律の知識が乏しいこと、企業関係者と連携する意識が乏しいこと、企業との連携に対して過度に防衛的、拒否的になる傾向があると思われる。

 

現時点で、企業との連携において、精神科主治医側から企業に望むことをまとめると以下のようになる。

1)            産業医を中心とした安全衛生システムが整備されていること。

2)            個人情報保護、守秘義務の認識が確立していること。

3)            情報が産業医等の手許に集中され、産業医等が就業上必要と判断する限りで集約・整理した情報のみが、企業の中でその情報を必要とする者のみに伝えられる体制

4)            産業医等は専門的な立場から情報を集約・整理し、当該労働者のプライバシーが守られた状態で関係者間の情報交換を行う調整役としての機能

5)            健康保険が適応されるのは本人の診療に限られるため、主治医に対して情報提供、あるいは面会を行う場合は、相応の費用を負担する制度

以上が、企業が連携する上で精神科主治医として企業に望む事柄であるが、中小企業、特に、産業医の選任もされていないような小企業、零細企業においては実現が困難なものが多い。

企業と精神科主治医が連携するために、企業は精神科主治医が診療内容に関して個人情報保護、及び、守秘義務に関する法令を遵守する義務を負っていることを認識する必要がある。そして企業が主治医に対して当該労働者に関する情報提供を求める場合は事前に当該労働者への説明と同意を得ると同時に企業のプライバシーに関する規則や体制を精神科主治医に説明するのが望ましい。また、精神科主治医が企業に提供する情報は当該労働者の就業制限、休職、復職などに関して職場で配慮すべき内容を中心に、その理解を得るための必要最低限の病態や機能に関する情報とするべきであり、具体的な疾患名は必要ではない。このことを企業側も主治医も今一度認識することが重要と考える。

 

 

4論文とビデオの内容に関する考察

産業精神保健の分野から精神科医療機関へのニーズはますます増大していくと考えられる。産業医の立場にしても、精神科主治医の立場にしても、偏った立場につかないように配慮しなければならないと思う。精神科医療機関としては「労働者としての患者」ということを再認識し、産業精神保健に関与していくことが必要である。そのためには精神科医療機関が企業と連携することが必要であるが、患者の不利益にならぬよう、プライバシーが護られる情報交換の方法を確立することが重要である。一方、精神科医療機関においては、産業精神保健に関する見識、関連法案の知識の習得、守秘義務を遵守した上で企業との連携方法を再認識し見識を深めることが重要である。また、医療機関に対する経済的担保も必要であると考えられる。

また、論文では産業医や精神科医の立場からのみの意見であったが、企業や労働者も努めなければならないことは多い。ビデオによると、現代の社会ではコミュニケーションの減少や失敗を助けてもらえなかったり、ストレスをうまくコントロールできないことが原因の一つであるようだ。そういった原因追求をしていき、職場改善をしなければならない。コミュニケーションを心がける、自由に話せる場を作る、お互い助け合う雰囲気を作る、など企業のシステムから一人一人の心がけまで、予防できる対策はたくさんあるのだと思う。

 

5まとめ

今回ストレス、労働の二つのキーワードをもとに論文を読んだが、社会問題と医療は深く結びついているのだと感じた。また、片方からでなく、様々な立場に立って多様な視点から物事を考えなければならないと思った。そういった物の考え方、捉え方、対策の仕方、問題の見つけ方などは、良い医師になるうえで必要なものであると思う。医師になるためには、ただ医学を勉強しさえすればなれるが、『良医』になるためには、医学だけ学んでも駄目だし、医療従事者だけとの繋がりだけでもだめだと感じた。医師とは何事に対しても、幅広く柔軟な考えを持つべきであると思う。物事を広く多方面から考えられるだけの力を身につけていきたい。